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釧路地方裁判所 昭和28年(わ)66号 判決

主文

被告人小野清六、同井出利明を各懲役二年に、同草野広中を懲役十月に各処する。

但し被告人草野広中については本裁判確定の日より三年間其の刑の執行を猶予する未決勾留日数中各五十日を右各本刑に算入する。

被告人小野清六より金八十五万五千三百円を、同井出利明より金四十三万七千四百五十円を、同草野広中より金二万円を各追徴する。

訴訟費用中証人高野由太郎、同北義次、同原田寿治、同妹尾忠衛、同加藤匡子に支給した分は被告人等三名の連帯負担とし証人野村幸一、同沼館助三郎、同後藤長七、同真田富吉、同本田盛、同後藤賢治、同大橋彰、同館山道博、同武田健作、同神正規、同中田栄作、同田島常治、同渡辺正三、同矢野勝也に支給した分は被告人小野清六、同井出利明の連帯負担とし証人菅原清助、同井出トミに支給した分は被告人井出利明の負担とする。

理由

被告人小野清六は鳥取町農地委員会委員兼同委員会会長(後に釧路市鳥取農業委員会会長)として農地の買収、売渡の計画樹立等の職務に従事し、同井出利明は同委員会の書記兼事務局長(後に釧路市釧路農業委員会事務局長兼務)、同草野広中は同委員会の書記として孰れも同委員会の議案の作成、農地の買収、売渡に関し現地の実測調査及びこれ等関係人の資産、信用状態の調査をしてこれを委員会に復命する等右会長の職務に附随する一切の事務に従事して居た者であるが、

第一、高野由太郎が釧路市から賃借して海産物乾場並に農地として使用中の釧路市鳥取町字鳥取二百九十一番地の二所在の土地一町三畝二十五歩が政府に買収されることとなつていたところ被告人小野清六は昭和二十四年四月中旬頃釧路市住吉町二十八番地の高野由太郎方に於て同人より右土地は他に売渡されることなく必ず高野に売渡されるよう格別の手続をなし便宜な取計いありたき旨懇請を受けるや茲に被告人三名は共謀の上右請託を容れ其の謝礼として供与されるものであることの情を知りながら昭和二十四年四月中旬頃現金三万円、同月二十日頃額面金二万円の小切手一枚、同月下旬頃現金四万円を孰れも右高野方に於て同人から交付を受け以て各其の職務に関し賄賂を収受し

第二、被告人井出利明は昭和二十六年春頃以来菅原清助より前に同人が国に買収されて及川恒輔に売渡となつた農地約二町歩を買戻し同地に水産加工場を設置致したきに付右土地を再度取得出来るよう便宜な取計いありたき旨を懇請されるや右請託を容れこれがため菅原より提供するものであることを知りながら昭和二十七年二月中旬の日曜日午後五時頃釧路市鳥取町十番地の自宅に於て現金一万二千円の供与を受け以て其の職務に関し賄賂を収受し

第三、被告人小野清六は釧路市鳥取町二十四番地の四所在農地一町四反二畝二十二歩を其の所有者及川恒輔より後藤長七に移転されるよう便宜な取計いを受けたい旨右後藤より請託され其の謝礼の趣旨を以て贈与されるものである事の情を知りながら昭和二十七年九月十日頃釧路市鳥取町十九番地の自宅に於て同人より現金五千円及び菓子一箱(時価金三百円相当)の交付を受け以て其の職務に関し賄賂を収受し

第四、被告人井出利明は釧路市鳥取町二十四番地の四所在農地一町四反二畝二十二歩を其の所有者及川恒輔より後藤長七に移転されるよう便宜な取計いを受けたい旨右後藤より請託され其の謝礼の趣旨を以て贈与されるものである事の情を知りながら昭和二十七年九月十日頃釧路市鳥取町十番地の自宅に於て同人より現金五千円及び四合瓶入ウヰスキー一本(時価金四百五十円相当)の交付を受け以て其の職務に関し賄賂を収受し

第五、被告人小野清六、同井出利明は沼館助三郎から同人の妻テル所有の釧路市鳥取町字舌辛原野八線、九線、十線、所在牧野約四十町歩が前に買収されていたがこれを右沼館の四男嘉明に売渡されるよう便宜な取計いを受けたい旨懇請を受けるや茲に被告人両名は共謀の上右請託を容れ其の謝礼の趣旨で供与されるものであることの情を知りながら

(一)、昭和二十四年一月二十五日頃釧路市旭町五十一番地沼館助三郎方に於て同人から現金十万円の交付を受け

(二)、同年十月一日頃右同所に於て同人から現金十万円の交付を受け

以て各其の職務に関し賄賂を収受し、

第六、被告人小野清六同井出利明は東京都居住の清水康雄所有に係る釧路市鳥取町字西幣舞九十七番地所在畑一町七反六畝十五歩を神正規の仲介にて菅原平三郎がこれを買受け転売の意図にて昭和二十五年四月頃鳥取町いくよ料理店に於て右神正規並に菅原平三郎の両名より「右畑地が所有者清水康雄より菅原平三郎に売渡されるよう便宜な取計いを受けたい、儲けた場合は御礼金を出す」旨懇請を受けるや被告人両名は共謀の上右請託を容れ其の謝礼の趣旨で供与されるものである事の情を知りながら昭和二十五年十月十二日頃釧路市北大通七丁目二番地中田栄作方二階座敷に於て右神正規、菅原平三郎の両名から現金五十万円の交付を受け更に即時同所に於て同人等に対し右謝礼金として金五十万円を要求し合計金百万円の交付を受け以て其の職務に関し賄賂を収受したものである。

(証拠説明は省略する)

法律に照らすと被告人等の判示の各所為は孰れも刑法第百九十七条第一項後段(判示第一、第五、第六の各所為は同法第六十条)

に該当するが以上は同法第四十五条前段の併合罪であるから同法第四十七条、本文第十条により犯情の重い被告人小野清六、同井出利明については判示第六の罪の刑に、被告人草野広中については判示第一の所為中昭和二十四年四月下旬頃現金四万円を収受した罪の刑に併合罪の加重をした刑期の範囲内で被告人小野清六、同井出利明を各懲役二年に、同草野広中を懲役十月に各処し、被告人草野広中については情状憫諒すべきものがあるので同法第二十五条により本裁判確定の日より三年間其の刑の執行を猶予することとし、なお同法第二十一条により未決勾留日数中各五十日を右各本刑に算入し、被告人小野清六の収受した金八十五万五千三百円(内金三百円は菓子一箱分)、(被告人小野清六、同井出利明両名が神正規及び菅原平三郎より収受した金百万円を小野に金七十万円、井出に金三十万円を分配した事は被告人小野清六の検察官事務取扱副検事に対する昭和二十八年八月八日附第一回供述調書によつてこれを認める)

同井出利明の収受した金四十三万七千四百五十円(内金四百五十円はウヰスキー一本分)、同草野広中の収受した金二万円は孰れも賄賂であつて既に費消して没収することができないから、同法第百九十七条の四に則り全部被告人等よりこれを追徴し訴訟費用は刑事訴訟法第百八十一条第一項第百八十二条により証人高野由太郎、同北義次、同原田寿治、同妹尾忠衛、同加藤匡子に支給した分は被告人等三名の連帯負担とし

証人野村幸一、同沼館助三郎、同後藤長七、同真田富吉、同本田盛、同後藤賢治、同大橋彰、同館山道博、同武田建作、同神正規、同中田栄作、同田島常治、同渡辺正三、同矢野勝也に支給した分は被告人小野清六、同井出利明の連帯負担とし証人菅原清助同井出トミに支給した分は被告人井出利明に負担させることにする。

よつて主文の通り判決する。(昭和二九年四月二八日釧路地方裁判所)

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